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〈爻辞〉
「樽酒簋貮。缶を用う。約を納るるに牖よりす。終に咎なし」
〈読み方〉
そんしゅきじ。ふを もちう。やくを いるるに まどよりす。ついに とがなし。
<爻辞の意味>
「質素な器に少しの酒食を盛り、窓から差し入れる。最終的に咎めを受けるようなことはない」
「坎為水」の卦(か)は「困難に処する道」について説かれている卦です。
そんな中この四爻は、困難な時代にある大臣です。
時代が時代なので豊かな酒食は用意できず、質素に盛られた物を小窓から君主に差し入れします。
それが精一杯であっても、真心こめて君主に仕えるので、この大臣と君主は互いに親しみます。
このような姿勢であれば、最終的には咎めを受けるようなことはないと言っています。
「占った事柄」と「上記の説明」を、スライドガラスを2枚重ね合わせるようにして解釈してみて下さい。
また、下記の
「加藤大岳述 易学大講座」の要約も、ぜひ併せてお読みになり理解を深めましょう。
<説明の要点>
この四爻は、器物の名によって説かれています。
「樽酒」とはタルザケで、祭祀の時に用いる御神酒です。
樽は後世、台所の隅に追いやられましたが、元来は神前に供えられる器具で、清潔質素な白木の樽です。
「簋」は、竹をもって作った器で、その中にきび(穀物の一種)などを盛ります。
これも簡素とか貧しいとかいう意味です。
「貮」とあるのは副えもののことで、簋貮と言えば簋に盛った副え物ということになります。
「缶」は、前に水地比のところでも出て来ましたが、瓦器で酒を盛ります。
樽酒も簋貮も用缶も、いずれも飾りを捨て、形式を廃した質素さを表したもので、いわば簡略を旨としています。それが「約」です。
その簡約なものを差し上げるのに、これもまた正門からでなく格子窓の隙間のようなところから差し入れる。
「牖」というのは、格子などがはめられている高い場所の明かり窓のことです。
つまり重険の時にあって、この爻は柔正でもって五爻の君側にいるので、その念とするところは内卦の各爻のように己一身の上ではなく、五爻に孚を致し、坎難を平らげようすることにかかっています。
けれども険中にあるので物も乏しく、礼を備えて行うことも出来ない。
そこで樽酒簋貮の約礼をもってするのです。
明かり窓からでも光は通るように、陰陽相比する四五の孚誠が通じついには咎なきを得るというわけです。
戦国の時代に荒廃した皇居の様や、ひそかに忠誠を尾張の一角より通じた信長…そういった状況を思い描けば、この爻辞も分かりやすいでしょう。
(加藤大岳述 易学大講座 現代語要訳)